#007 音楽著作権に関係する主な登場人物(その3)「音楽出版社」(1)

前回は、「音楽著作権に関する主な登場人物」のうち、1番に考えられるべき存在として、「作詞家・作曲家」について説明しましたが、今回からはその「作詞家・作曲家」をサポートする人たちのことについて説明します。今回は「音楽出版社」について説明します。

Microphone

<音楽出版社って何か出版しているの?>
ところで、音楽著作権に関する登場人物のひとりとして「音楽出版社」を説明するわけですが、そもそも、「音楽出版社」とは一体どのような存在でしょうか?「出版社」と呼ばれているからには、何か「出版」しているのでしょうか?

「音楽出版社」の起源は16世紀のヨーロッパに遡りますが、当時は貸譜(楽譜のレンタル)ビジネスに始まったと言われています。作曲家から楽譜を預かり、その楽譜を貸し出すことによりレンタル料を受け取り、そのレンタル料を作曲家と分け合うというビジネスです。

印刷技術の進展とともに楽譜を印刷して販売するという形態のビジネスが発展し、楽譜の出版社という意味でこの形態が英語で「ミュージック・パブリッシャー」と呼ばれるようになったとのことです。ちなみに、この時代の音楽著作権の利用法は生演奏です(あえて言うなら、今の「ライブ」ということができるかもしれません)。

楽譜の時代でも、「音楽出版社」は、当初は、特にポピュラー・ミュージックについて言えば、あまり広告もせずプロモーションも行わず、印刷した楽譜が売れるのをただ待っている存在でした。これが、アメリカでは19世紀の終わり頃に変化を遂げます。楽曲が広告され、劇場やメディスン・ショー、クリスティ・ミンストレルズに売り込みされ、ピアノ譜をオーケストラ譜にして楽曲の新しい利用の提案を行うなど、利用開発(プロモーション)が行われるようになったのです。

その後、レコードや映画の出現やラジオやテレビといった放送の開始に伴い、音楽の利用方法が多様化し、楽譜の出版を中心としたビジネスから、楽曲(と音楽著作権)を管理し、その利用を促進するビジネスに変遷していきました。

日本では1960年前後に音楽著作権の管理ビジネスがスタートし(水星社など)、「ミュージック・パブリッシャー」を日本語に訳し「音楽出版社」というようになりました。

(ポピュラー・ミュージックを創作するインディーズの音楽クリエイターやアーティストの皆さんにとっても、音楽出版社の歴史(特に1950〜60年代のアメリカ)は興味深いものですので、これは機会を改めて説明することにします。)

ということで、「音楽出版社って、何か出版しているものがあるの?」という質問があれば、「楽譜です」というのが答えとなりますが、実際のところ、楽譜を出版する音楽出版社はそれほど多くはありません。ただ、私たちが普段取り交わす「著作権契約書」には楽譜についての取決めがしっかりと書かれてあり、今後「著作権契約書」について説明する際に触れることにしましょう。

<音楽出版社の立ち位置>
「音楽出版社」の役割を見ていきますが、まずは、音楽著作権に関わるお金の流れを見てみましょう。音楽著作権の使用料がどのように徴収され、それがどのように分配されるかの一般的な流れです。お金の流れから見ると、音楽出版社の立ち位置は「作詞家・作曲家」と「著作権等管理事業者」の間にあるように見えます。

(音楽著作権使用料の流れには、この図の方法のほか、「作詞家・作曲家」が自己管理する(音楽の利用者に直接使用許諾し著作権使用料を徴収する)方法や「作詞家・作曲家」が「音楽出版社」を通さずJASRACに著作権管理を直接委託する方法などがあります。なお、著作権のお金の一般的な流れは、JASRACのウェブサイトや一般社団法人日本音楽制作者連盟が発行する「音楽主義」やウェブサイトなどでも詳しくご覧いただけます。)

<「著作権」が「音楽出版社」に「譲渡」される、とは?>
この図で示されているのは、「作詞家・作曲家」は「音楽出版社」に「著作権譲渡」を行い、著作権が利用された見返りとしての著作権使用料を「音楽出版社」から「作詞家・作曲家」は受け取るというプロセスです。

ポイントは、まず「作詞家・作曲家」が「音楽出版社」に著作権を「譲渡」しているということです。以前に説明したとおり、著作権は創作の時点で発生し、「作詞家・作曲家」=「著作者」が、原則として、「著作権者」(著作者の権利を保有する者)となります。

そのことから、この場合の「譲渡」するとは、「作詞家・作曲家」に当初発生した「著作権」を、「著作権譲渡契約」に基づき(つまり、「作詞家・作曲家」と「音楽出版社」のお互いの合意に基づき)、「音楽出版社」に「譲渡」するということです。この時、「著作権」は当初の「作詞家・作曲家」から「音楽出版社」に移転し、「音楽出版社」が「著作権者」となります。

「著作権譲渡契約」は、多くの場合「著作権契約書」を取り交わす方法により、締結されています。日本音楽出版社協会(MPA)の「著作権契約書」は、その第1条で、契約の目的について、「本件作品の利用開発を図るために著作権管理を行うことを目的として、甲(著作権者)は、本件著作権を、乙(音楽出版社)に対し独占的に譲渡します」と規定しています。

この場合に「甲」が「著作権者」であって「著作者(= 作詞家・作曲家)」でないのは、この契約時点で、すでに「著作権」が「著作者(= 作詞家・作曲家)」から別の第三者(移転後はこの者が「著作権者」)に移転していることがあるためです(「著作権者」が死亡した場合に相続を受けて「著作権者」になる場合なども含みます)。

ちなみに、「著作権譲渡契約」では、通常、契約期間を定めていて、「著作権」を「譲渡」すると言っても、契約期間が終了した際には「著作権」は「音楽出版社」から元の「著作権者」に戻ります。

なお、「音楽出版社」が著作権等管理事業者(JASRACやNexToneなど)に著作権管理委託をする場合、「音楽出版社」は「作詞家・作曲家」から譲渡を受けた著作権を、JASRACに委託する場合は「著作権信託契約」、NexToneに委託する場合は「管理委託契約」に基づいて管理委託します。

JASRACの場合は、信託契約により、訳詞や編曲に関する権利以外の著作権が信託の対象となり、JASRACへ著作権が譲渡されたのと同様の取扱いがなされます。NexToneの場合は取次委任ですので、著作権はあくまで「音楽出版社」に残ります。

<なぜ「作詞家・作曲家」は「著作権」を譲渡するのか?>
楽譜出版の時代から、楽曲が複製物として流通する時代、また、現在のように時間や場所を問わず利用される時代まで、ある楽曲がさまざまな方法で広範に利用される状況にいたると、著作権の管理と利用の開発などが必要となります。

今の時代では、楽曲は創作されて公表された段階で、多様な方法(ライブ、ストリーミング、ダウンロード、放送、CDなどなど)で海外を含む広い地域で利用されることになるわけですから、著作権管理と利用開発はますます必須なものとなります。

そもそも「作詞家・作曲家」は、創作に類い稀な才能があり、創作活動に専念することが望ましく、自ら著作権管理や利用開発まで行うことには時間的にも制約があると考えます(もちろん、その両方ができてしまう超人的なクリエイターもいらっしゃると思います!)。

その場合、著作権管理や利用開発に専門的な能力がある「音楽出版社」に楽曲の著作権管理や利用開発を委ね、それぞれの専門分野で機能分担を図るというのは自然な考えかもしれません。

ここで述べたような事情から、「著作権」という大事な権利を「音楽出版社」に譲渡するということが日常的に行なわれているということでしょう。

<「『音楽出版社』の主な業務」のイントロ>
それでは、「音楽出版社」は何を主な業務としているのでしょうか?

JASRACの定款7条2項2号には、「音楽出版社」(定款では「音楽出版者」)を「著作権者として、出版、レコード原盤への録音その他の方法により音楽の著作物を利用し、かつ、その著作物の利用の開発を図ることを業とする者をいう。」としています(「一般社団法人日本音楽著作権協会定款」)。

また、日本音楽出版社協会もそのウェブサイトで「音楽出版社の仕事を大別すると、著作権の管理と開発、ということになります。また、音楽出版社の多くは、原盤制作も行っており、音楽出版社の業務は、これら三本の柱からなるということもできます。」と説明しています(一般社団法人日本音楽出版社協会ウェブサイト「音楽出版社の歴史」)。

つまり、
・ 音楽著作権の管理(著作権管理業務)
・ 音楽著作権の利用開発(利用開発業務)
・ 原盤の制作(原盤制作業務)
の3つです。

なお、著作権法などの法令には規定が見当たりませんので、これらが法律上決められたものではなく、あくまで著作権者や著作権等管理事業者などの当事者間での取決めで行なわれている業務であると言えるでしょう。

今回はここまでとして、次回は、「『音楽出版社』の主な業務」の続きから説明しています。

<ところで・・・>
ところで、冒頭の「音楽出版社って何か出版しているの?」の問いですが、出版社の株式会社音楽出版社が雑誌「CDジャーナル」などを発行していることは言うまでもありません。

(次回は、音楽著作権に関係する主な登場人物である「音楽出版社」の続きです。次回もよろしくお願いします!)

(本稿は2016年11月29日に若干の加筆・修正をしています。)

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